SONATA ACADEMY / 音大受験ガイド
実技だけじゃない、音大入試の準備。
受験経験とともに、必要な試験と対策を整理する。
音大受験というと、「とにかく楽器が上手ければ合格できる」というイメージを持っている人もいるかもしれません。
しかし実際には、専攻実技だけでなく、楽典・聴音・ソルフェージュ、学科試験、面接、小論文などが課される場合があります。
さらに、必要な試験は大学・専攻・選抜方式によって異なります。
今回、執筆に協力した池谷彰恩先生も、静岡県の高校から音大を目指し、専攻実技だけでなく楽典やソルフェージュなどを高校生になってから本格的に準備しました。
この記事では、音大入試でどのような試験が行われるのかを整理するとともに、実際に地方から音大を受験した経験を交えながら、受験準備のポイントを解説します。
音大入試で見られることの全体像
音大入試は、すべての大学・専攻で同じ試験を受ける仕組みではありません。
大きく分けると、専攻実技、楽典・聴音などの音楽基礎、学科試験、面接・小論文・書類などがあります。
ただし、どの試験が必要なのかは、大学・専攻・選抜方式によって異なります。
| 領域 | 主に確認する力 | 要項で確認したいこと |
|---|---|---|
| 専攻実技 | 演奏・歌唱・創作など | 課題曲、自由曲、使用楽器、審査方法 |
| 音楽基礎 | 楽典、聴音、新曲視唱、リズムなど | 必須・選択、実施形式、出題範囲 |
| 学科 | 共通テスト・大学独自試験など | 指定教科・科目、資格試験の扱い |
| 面接・小論文 | 志望理由や考えを伝える力など | 対象となる方式、試験内容 |
| 書類 | 志望理由・活動歴など | 必要書類、様式、提出期限 |
実際に池谷先生が洗足学園音楽大学を受験した際も、専攻するトランペットの実技だけではありませんでした。
本人の記憶では、専攻実技に加えて楽典・ソルフェージュ、面接、小論文などの準備も必要だったといいます。
「実技はもちろん苦労しましたけど、楽典やソルフェージュもすごく苦労した記憶があります」池谷 彰恩先生
「音大受験=実技試験」とだけ考えていると、後になって準備すべき科目の多さに気づく可能性があります。
そのため、まずは自分が受ける大学・専攻・選抜方式を決め、必要な試験をすべて洗い出すことから始めましょう。
※上記は池谷先生が受験した当時の経験です。現在の洗足学園音楽大学の入試内容を示すものではありません。
専攻実技|何を演奏・提出するか
音大受験でまず確認したいのが、専攻実技です。
試験内容は楽器や専攻によって異なり、課題曲・自由曲・演奏順・暗譜の要否・伴奏の条件などが細かく指定されることがあります。
吹奏楽部で管打楽器を担当している場合も、普段演奏している合奏曲のパートを練習することと、音大入試の実技対策は分けて考える必要があります。
池谷先生も、吹奏楽部でトランペットを演奏していましたが、音大進学を考えてからは専門的なレッスンを受けるようになりました。
静岡から東京まで、月に1回ほど新幹線でレッスンに通っていた時期もあったといいます。
高校の授業が終わると、そのまま制服姿で新幹線に乗って東京へ向かい、レッスンを受け、その日のうちに静岡へ帰る生活でした。
もちろん、すべての受験生が同じように東京までレッスンへ通う必要があるわけではありません。
重要なのは、志望校の実技試験で何を求められているのかを知り、現在の演奏と合格までの距離を専門的な視点から確認することです。
楽典・聴音・新曲視唱|「音楽基礎」を分けて考える
音大入試では、実技以外に音楽の基礎的な力を確認する試験が行われることがあります。
「ソルフェージュ」という言葉でまとめられることもありますが、それぞれ必要な対策は異なります。
楽典
楽譜を読み解くために必要となる音楽の知識を扱います。
出題内容や難易度は大学によって異なるため、まず志望校の試験内容や過去問題を確認し、自分が知らない分野を把握することが重要です。
聴音
演奏された音を聴き取り、楽譜に書き起こす試験です。
旋律聴音や和音聴音など、出題形式が異なる場合があります。
池谷先生も、音大を目指すまで本格的な聴音のトレーニングをしていたわけではありません。
また、絶対音感もなかったため、最初は特に苦労したと振り返っています。
「全くできない状態からスタートして、とにかく訓練するという感じでした」池谷 彰恩先生
音を聞いてすぐに音名が分かる人を見て、「自分には音大は無理なのでは」と感じる必要はありません。
必要なのは、志望校でどのような試験があるのかを確認したうえで、現在のレベルから対策を始めることです。
新曲視唱・リズム課題
初めて見る楽譜をその場で歌ったり、指定されたリズムを表現したりする試験です。
こちらも大学・専攻によって実施の有無や方法が異なります。
「音大なら全員が楽典・聴音・新曲視唱・副科ピアノを受ける」と考えず、自分の志望先で必要なものだけを正確に確認しましょう。
共通テスト・独自の学科試験は必要?
学科試験の扱いも、大学や選抜方式によって大きく異なります。
たとえば東京藝術大学の2027年度入学者選抜要項では、音楽学部の一般選抜で大学入学共通テストと大学の個別試験などを用いて判定する方針が示されています。
一方、私立音大では大学独自の学科試験や資格・検定試験などを利用できる場合もあります。
確認する順番は、
「学科試験が必要か」→「何を受験するのか」→「どのように評価されるのか」
です。
実技に自信があったとしても、募集要項を確認する前から「学科は実技でカバーできるだろう」と判断するのは避けましょう。
総合型選抜・推薦・一般選抜|受験方式も確認する
音大受験では、「何を受けるか」だけでなく、「どの方式で受けるか」も重要です。
現在は一般選抜だけでなく、総合型選抜や学校推薦型選抜など、複数の受験方式を設けている音楽大学があります。
そして、方式によって試験日程や試験内容が変わる可能性があります。
池谷先生の場合、現在の総合型選抜にあたる、当時のAO入試で洗足学園音楽大学を受験しました。
受験は9月頃だったと記憶しており、その直前の8月にはイギリスへ短期音楽留学しています。
もしAO入試で合格できなかった場合には、その後の一般選抜も受験するつもりだったといいます。
つまり、
第一志望校を決める → 一般選抜だけを見る
のではなく、
第一志望校を決める → 利用できる選抜方式を調べる → それぞれの日程・条件・試験内容を比較する
ところまで確認することが重要です。
特に総合型選抜などは一般選抜より早い時期に実施されることがあるため、高校3年生になってから初めて調べると、準備期間が短くなる可能性があります。
面接・小論文・書類がある場合
面接や小論文、志望理由書などについても、すべての音大受験生に必要なわけではありません。
自分が受験する専攻・方式で必要なのかを確認しましょう。
面接がある場合は、
「なぜ音大へ進みたいのか」「なぜこの大学・専攻なのか」「これまでどのような音楽活動をしてきたのか」「大学で何を学びたいのか」
といった内容について、自分の経験をもとに説明できるよう整理しておくとよいでしょう。
「模範解答」を暗記するのではなく、自分が音楽とどのように関わってきたのかを言葉にすることが準備の第一歩になります。
志望校の募集要項を読むチェックリスト
音大受験で怖いのは、実力不足だけではありません。
「必要な試験を知らなかった」「別の選抜方式があることを知らなかった」という情報不足も、準備に大きく影響します。
志望校が決まったら、最低限次の内容を整理しましょう。
- 年度・大学・学科・専攻・選抜方式は合っているか
- どのような選抜方式が利用できるか
- それぞれの出願期間・試験日はいつか
- 専攻実技の課題曲・自由曲・使用楽器などの条件は何か
- 楽典・聴音・新曲視唱・副科などは必要か
- 共通テストや大学独自の学科試験は必要か
- 面接・小論文・提出書類はあるか
- 募集要項や課題曲の追加公開・訂正情報は出ていないか
特に音大受験について詳しい人が周囲にいない場合は、募集要項を読んだだけで分からないことを、そのままにしないことが重要です。
大学の入試担当者、学校の先生、専攻楽器の先生などに確認しながら、一つずつ不明点をなくしていきましょう。
地方から音大受験|「知らなかった」を減らすことが大切
地方から音大を目指す場合、実技や勉強とは別の難しさを感じることがあります。
その一つが、情報を得られる環境の違いです。
池谷先生も静岡から音大を目指していた高校生の頃、
「周りがどんなことをやっていて、どんな実力の子がいるのかも全く分からない状態で、とにかく手探りでした」池谷 彰恩先生
と振り返っています。
音楽高校や音大附属高校など、周囲にも音大を目指す生徒が多い環境であれば、先生や先輩から自然に受験情報が入ってくることがあります。
一方、周囲に音大受験生がほとんどいなければ、
「いつから専門の先生につけばいいのか」「楽典や聴音が必要なのか」「どのくらいのレベルなら受験できるのか」「どんな選抜方式があるのか」
といったこと自体を知る機会が少ないかもしれません。
池谷先生の場合は、東京まで月1回ほどレッスンに通っていました。
しかし、東京へ頻繁に通わなければ音大を目指せない、ということではありません。
現在はオンラインレッスンや動画、大学が発信する情報など、地方からでも利用できる手段が増えています。
本人も、
「地方にいても学べる手段は、今はすごく増えていると思います」池谷 彰恩先生
と話しています。
だからこそ、地方から音大を目指す場合に重要なのは、最初から都市部の受験生と同じ環境を用意することではなく、まず「何が必要なのか」を知ることです。
知らなければ、準備を始めることもできません。
逆に必要なことが分かれば、自宅で取り組むのか、地域の先生に相談するのか、オンラインを利用するのか、必要なタイミングだけ都市部へレッスンに行くのか、自分に合った方法を考えられます。
音大受験のために、演奏会にも足を運んでみる
募集要項には書かれていませんが、対談の中で池谷先生が地方の高校生に特に勧めていたことがあります。
それが、できる範囲でプロの演奏を生で聴くことです。
地方に来る演奏会はもちろん、受験講習会やレッスンなどで東京・首都圏へ行く機会があるなら、プロのオーケストラや演奏家のコンサートにも足を運んでみる。
池谷先生自身、高校生のときにプロの吹奏楽団の演奏を生で聴いたことが、音大を目指す大きなきっかけになりました。
音大へ進学した後には、さまざまな演奏家や同世代の学生と出会い、高校生の頃と卒業時では「音楽に対する視野が大きく変わった」といいます。
受験勉強だけでなく、自分がこれから学ぼうとしている音楽の世界を実際に見ることも、進路を考える材料の一つになります。
まとめ|まず「自分が受ける試験」を特定する
音大入試は、専攻実技だけで決まるとは限りません。
楽典・聴音・新曲視唱などの音楽基礎、共通テストや独自の学科試験、面接・小論文・書類など、大学・専攻・選抜方式によって必要な準備は変わります。
さらに、総合型選抜・学校推薦型選抜・一般選抜など、同じ大学でも受験する方法が複数用意されていることがあります。
だからこそ、最初からすべての科目を勉強するのではなく、
志望校・専攻を決める → 選抜方式を調べる → 必要な試験を一覧にする → 現在の実力を確認する → 必要な対策を始める
という順番で整理してみましょう。
特に地方から音大を目指す場合、周囲に受験経験者が少なく、「知らなかったために準備できなかった」ということも起こり得ます。
分からないことがあるのは問題ではありません。
早い段階で情報を集め、必要な人に相談し、自分に合った受験準備の方法を見つけることが大切です。
参照した情報
※入試科目・課題・選抜方式は年度や専攻によって変わります。受験時には、必ず志望校が公開している最新の選抜要項・学生募集要項をご確認ください。
※池谷先生の受験に関する記述は、本人の受験当時の経験に基づいています。現在の洗足学園音楽大学の入試制度・試験内容とは異なる場合があります。
