SONATA ACADEMY / 音大受験ガイド
吹奏楽部から、音大への一歩。
経験者の実体験から、受験準備の始め方を考える。
吹奏楽部で楽器を続けているうちに、
「もっと本格的に楽器を学びたい」「音楽大学に進学してみたい」「将来、演奏を仕事にできたら」
と考え始める人もいるのではないでしょうか。
一方で、音大を目指そうと思っても、「吹奏楽部で練習していれば受験できるの?」「楽典や聴音も必要?」「強豪校ではないけれど大丈夫?」など、分からないことも多いはずです。
実際、吹奏楽部から音大へ進学した人でも、最初から音大受験について詳しかったとは限りません。
今回、執筆に協力した池谷彰恩先生も、中学校から吹奏楽部でトランペットを演奏していましたが、いわゆる吹奏楽の強豪校出身ではありません。高校に入ってから音大進学を意識し、必要な準備を一つずつ調べて、洗足学園音楽大学へ進学しました。
この記事では、吹奏楽部から音大を目指す場合に知っておきたいことを、実際の受験経験とあわせて紹介します。
吹奏楽部から音大を目指せる?
吹奏楽部からでも音大を目指すことはできます。
ただし、吹奏楽部で活動していることと、音大入試の準備ができていることは同じではありません。
吹奏楽部で楽器を続けてきた経験は、合奏で周囲の音を聴く力や、継続して練習する習慣につながります。
一方、音大入試では、志望する大学・専攻によって、専攻実技のほか、楽典・聴音・新曲視唱などの音楽基礎科目、学科試験や面接などが課される場合があります。
実際、池谷先生も中学校・高校で吹奏楽部に所属していましたが、音大を意識するまでは、
「そもそも音大という場所が、何を勉強したら入れるのか、何をする場所なのかも全く分かりませんでした」池谷 彰恩先生
と振り返ります。
中学校の吹奏楽部もコンクールへ積極的に出場するような強豪校ではなく、学校外でトランペットを習ったり、地元の楽団に参加したりしながら演奏を続けていました。
つまり、「強豪校の吹奏楽部に所属していないと音大へ行けない」というわけではありません。
大切なのは、音大を目指したいと思った時点から、自分に必要な準備を把握していくことです。
部活動の練習と、音大受験の準備はどう違う?
吹奏楽部と音大受験では、求められる準備が異なります。
吹奏楽部では、合奏の中で自分のパートを演奏し、全体として一つの音楽をつくることが中心になります。
一方、音大入試では、一人の演奏者として実技を評価されるための準備が必要です。
さらに、大学・専攻によっては実技以外の試験にも備えなければなりません。
| 確認すること | 吹奏楽部での経験 | 音大受験で追加して確認すること |
|---|---|---|
| 演奏 | 合奏曲の中で自分のパートを演奏する | 専攻実技・課題曲・自由曲などを確認する |
| 音楽の基礎 | 合奏を通じて音程やリズムを感じる | 楽典・聴音・新曲視唱などの要否を確認する |
| 学科 | 高校の授業・定期試験などに取り組む | 共通テスト・大学独自試験などの要否を確認する |
| 面接・書類 | 高校の進路指導を受ける | 面接・志望理由書・その他提出物を確認する |
池谷先生自身も、
「吹奏楽をやっていたから音大と距離が近いかというと、そんなこともなかったです」池谷 彰恩先生
と話しています。
部活動を一生懸命続けてきたことは大きな経験です。
ただし、音大受験をすると決めたら、部活の延長だけで考えず、「入試では何を求められるのか」を一度整理することが必要になります。
音大を目指したきっかけは「プロの演奏」だった
そもそも、吹奏楽部からどのように音大進学を考えるようになるのでしょうか。
池谷先生がトランペットを本格的に始めたのは中学生の頃です。
幼い頃からトランペットに興味があり、中学校で吹奏楽部へ入る少し前から楽器を習い始めました。
しかし、中学生の時点では音大進学を考えていたわけではありません。
転機になったのは高校生のときです。
高校1年生の頃、地元・静岡のホールで東京佼成ウインドオーケストラの演奏を生で聴く機会がありました。
それまでSNSなどを通してプロの演奏に触れることはありましたが、生の演奏を聴いたことで、
「めちゃくちゃかっこいい。これが将来の道になったらいいな」池谷 彰恩先生
と強く感じたといいます。
その時点で「絶対にプロになる」と決めていたわけではありません。
それでも、この経験をきっかけに、音楽大学へ進むという選択肢が具体的な進路として見え始めました。
さらに高校では、たまたま少し上の学年に音大へ進学する先輩がいました。
身近な先輩が音大を目指している姿を見たことも、「自分も音大へ行けるかもしれない」と考えるきっかけになりました。
音大進学を考え始めるきっかけは、人によって異なります。
最初から「音楽家になる」と決めていなくても、演奏会や先生、先輩との出会いから進路が具体的になることもあります。
音大を目指すと決めたら最初に確認したい3つのこと
「音大に行ってみたい」と思ったら、まず漠然とした目標を具体的な受験計画に変えていきましょう。
1.今の楽器で何を学びたいか
まず考えたいのは、大学でどのような音楽を学びたいのかです。
一つの楽器を専門的に学びたいのか、吹奏楽について深く学びたいのか、音楽教育に興味があるのか。
同じ「音大」でも、大学やコースによって学べる内容は異なります。
池谷先生が洗足学園音楽大学に興味を持った理由の一つも、学べる音楽の幅広さでした。
吹奏楽だけでなく、オーケストラやブリティッシュブラスなどさまざまな編成があり、さらにジャズやロック・ポップスなどにも触れられる環境に魅力を感じたといいます。
もともとジャズにも興味があったことから、「入学してから幅広い音楽に触れられる」という環境が大学選びにつながりました。
2.候補校を2〜3校挙げる
次に、候補となる大学をいくつか挙げます。
大学名だけではなく、
- 学校名
- 専攻・コース
- 選抜方式
- 専攻実技
- その他の試験科目
まで確認することが重要です。
たとえば東京音楽大学には吹奏楽アカデミー専攻があります。一方で、管打楽器を専門的に学ぶ別の選択肢もあります。
「吹奏楽が好きだから、この大学」とすぐに決めるのではなく、自分が大学で何を学びたいのかと照らし合わせて選びましょう。
3.今の実力を外から見てもらう
音大受験では、自分だけで「このレベルなら大丈夫」と判断するのは難しいものです。
できるだけ早い段階で、専攻楽器の先生などに演奏を見てもらいましょう。
池谷先生の場合は、音大を検討していることを高校の顧問へ相談したことで、トランペットの先生を紹介してもらうことができました。
音大受験について詳しい人が身近にいなくても、まず一人に相談することで、次の人や情報につながることがあります。
吹奏楽部から音大受験へ|実際に始めた準備
音大を目指し始めた当初は、「何をすればいいのか分からない」という状態でした。
そこで、周囲の先生に相談しながら、必要な準備を少しずつ始めていきました。
大きな転換点となったのは、高校2年生頃から専門的にトランペットの先生につき始めたことです。
そして、調べていく中で、専攻実技だけを練習していればよいわけではないことも分かってきました。
それまでほとんど経験していなかった、楽典やソルフェージュなどの対策も必要だったのです。
もともとピアノを習っていた先生に、
「ソルフェージュと楽典を教えてほしいです」池谷 彰恩先生
とお願いし、改めて通い始めました。
週1回程度レッスンへ通いながら、自宅では志望大学が提供していた受験向けの教材なども活用して勉強を進めました。
つまり、最初から音大受験に必要な環境がすべて整っていたわけではありません。
必要だと分かったものを、その都度周囲に相談しながら一つずつ揃えていったという受験準備でした。
楽典・聴音・ソルフェージュ未経験でも大丈夫?
吹奏楽部から音大を目指す場合、
「楽典を勉強したことがない」「聴音をやったことがない」「絶対音感がない」
と不安になる人もいるでしょう。
未経験だからといって、それだけで音大を諦める必要はありません。
ただし、志望校の入試で必要なのであれば、早めに対策を始めることが大切です。
池谷先生も、高校でソルフェージュを学ぶような環境ではありませんでした。
音大受験を意識して初めて必要性を知り、高校2年生頃から本格的に勉強を始めています。
特に苦労したのが聴音でした。
「絶対音感はなくて、全くできない状態からスタートしました。とにかく訓練するという感じでした」池谷 彰恩先生
周囲には、音を聴いただけですぐに音名が分かる人もいます。
その姿を見ると「自分には向いていないのでは」と感じてしまうかもしれません。
しかし、聴音などには継続的なトレーニングによって伸ばしていける部分もあります。
一方で本人は、高校2年生頃から始めても「自分にとっては2年間でも十分ではなかった」と振り返っています。
だからこそ、「高3になってから考えればいい」と後回しにするのではなく、音大が選択肢に入った段階で、まず自分に必要な科目を調べることが重要です。
今日からできる音大受験準備
音大に興味を持ったからといって、翌日から何時間も練習を増やす必要はありません。
最初にやるべきなのは、「何に向けて練習するのか」を明確にすることです。
最初の1週間では、次の5つから始めてみましょう。
- 候補校・専攻を書き出す。演奏、吹奏楽、教育など、自分が興味を持っている方向も一緒に書きます。
- 大学公式の募集要項を確認する。専攻実技だけでなく、楽典・聴音・新曲視唱・学科・面接なども確認します。
- 必要な試験科目を一覧にする。「対策済み」「未経験」「よく分からない」に分けるだけでも、現在地が見えます。
- 今の演奏を先生に見てもらう。学校の顧問や専攻楽器の先生など、相談できる人を探します。
- 次の1か月で取り組むことを決める。実技だけでなく、必要であれば音楽基礎科目にも少しずつ時間を使います。
課題曲がまだ公表されていない場合は、過去年度の募集要項を参考にしながら準備できます。
ただし、試験内容が前年と同じとは限らないため、最新情報が発表されたら必ず確認してください。
よくある不安に答えます
強豪校の吹奏楽部ではないけれど、音大を目指せる?
強豪校ではないことだけを理由に諦める必要はありません。
今回紹介した池谷先生も、吹奏楽コンクールへ毎年出場するような中学校の出身ではありませんでした。
学校外でレッスンを受けたり、地域の楽団に参加したりしながら経験を積み、高校に入ってから音大という進路を具体的に考えています。
重要なのは所属している吹奏楽部の実績だけではなく、現在の演奏力と、受験までに何を準備できるかです。
コンクールで結果を出していないと厳しい?
コンクール歴だけで合否が決まるわけではありません。
まずは志望する大学・専攻・方式の出願条件と試験内容を確認してください。
部活動での実績と、入試当日に求められる専攻実技などは分けて考える必要があります。
部活が忙しいままでも準備できる?
準備はできますが、試験までの期間によって優先順位は変わります。
まず必要な受験科目を洗い出し、部活・学校生活を含めて1週間に使える時間を整理しましょう。
特に実技以外の科目を初めて勉強する場合は、直前にまとめて対策するよりも、早い段階から少しずつ取り組む方が計画を立てやすくなります。
高校2年生から音大を目指すのは遅い?
一律に「遅い」「間に合う」と判断することはできません。
楽器歴、現在の演奏力、志望校、入試科目によって必要な準備期間が大きく変わるためです。
今回のケースでは、高校1年生頃に音大を意識し、高校2年生頃から専攻実技や音楽基礎の受験準備を本格化して、洗足学園音楽大学へ進学しています。
一方で、本人は楽典やソルフェージュについて「もっと時間があってもよかった」と感じています。
「何年生だから大丈夫」と考えるより、現在地と志望校までの距離を早めに確認することが重要です。
絶対音感がなくても音大を受験できる?
絶対音感がないことだけで音大受験ができなくなるわけではありません。
実際に池谷先生も「絶対音感はなかった」と話しています。
大切なのは、志望校で聴音などが必要なのかを確認し、必要であれば現在のレベルに合わせて対策することです。
まとめ|吹奏楽部から音大を目指す人へ
吹奏楽部で活動していると、音楽大学は比較的身近な進路に見えるかもしれません。
しかし、実際に受験を考え始めると、
「何の試験があるのか分からない」「専門の先生に習った方がいいのか分からない」「楽典や聴音をやったことがない」「自分のレベルで音大を目指せるのか分からない」
という壁にぶつかることがあります。
今回紹介したケースでも、最初から受験について詳しかったわけではありません。
高校生のときにプロの演奏を聴いて音大に興味を持ち、周囲へ相談し、専門の先生を紹介してもらい、必要だと分かった楽典やソルフェージュを学び始めました。
「音大へ行きたい」と思った時点ですべてを知っている必要はありません。
まず必要なのは、
- 自分が受ける試験を知ること。
- 今の実力を知ること。
- 分からないことを相談できる人を見つけること。
この3つです。
吹奏楽部で積み重ねてきた経験を出発点として、音大受験に必要な準備へ少しずつ切り替えていきましょう。
参照した情報
※入試科目・課題・選抜方式は年度や専攻によって変更されます。受験時には、必ず志望校が公開している最新の選抜要項・学生募集要項をご確認ください。
